今、日本全国で木材がかなり不足しています。住宅産業に携わって25年以上の私でも、これほどまでの木材不足は初めてです。
昔あったオイルショックにちなんで、業界内では今の木材不足のことを「ウッドショック」と言っています。
今までも合板が値上がりするとか、どうのこうのっていうのは何回かありました。それでも「そのうちに改善するでしょ?」って思っていると、いつの間にか材料不足が治まっていたものです。東日本大震災のあとや、中国での大洪水のときとか、今までも度々このようなことはあったのです。
しかし、今回の「ウッドショック=木材不足問題」は、今までとはかなり様子が異なります。
本当に日本全国的に木材がないのです。住宅の構造材に使われる米マツなんてほぼ無い。今まで普通にあった木材が完全にレアアイテム化しています。
しかも、今後の木材の入荷の見通しがつかないというから困ったものです。
先日、プレカット業者さんと話しましたが、「今(まだ4月ですよ)プレカットを発注してもお約束できる納品日は8月です」というような会話をしました。
他のプレカット業者さんからは、「納品日をお答えできません」という回答。さらに他のプレカット業者さんは「最大限の努力はします。しかし納品日は・・・・」という回答。
プレカット業者さんに実情を聞いてみると、発注した木材が100だとすると、半分の50の量の入荷しかなかったり、ひどいときには30だったり、あるいはまったく入ってこなかったりなんてことが日常茶飯事になってしまっているのです。
そりゃ納期回答できませんよ。自分たちのプレカット工場に材料である木材が来ないんですから。
「そんなこと言ったって、日本のそこら中に森あるしっ。それ切りゃいいんじゃないの?」って、一般の方は思うでしょうね。事はそんなに簡単なことではないのです。
やっと大手一般新聞でもウッドショックについて取り上げましたね。
どこかへの忖度があったのか?なんて事はどうでもいいとして、肝心なのは家造りを楽しみにしているお客様への影響をなるべく少なくする事。
一般工務店レベルではどうしようも無いけど・・・何かできんのか? https://t.co/JqrwbKlXY2— イエ家いえ!建築士のmacotoです (@archikoto) May 6, 2021
今回の記事では、なぜこのような事態になってしまったのか、また家造りを考えている方がさしあたり今するべきことはどのようなことなのか、を私なりに考え解説していきます。
この記事は令和3年4月29日時点での情報をもとに執筆しています
なぜウッドショックが起きているのか?
ウッドショックの原因を語る前に、今までの日本の木材事情も知る必要があります。
日本の木材自給率は約30%でしかない
戦後の日本は、復興に向けて木材の需要が高まり、木材の高騰が続いていました。このときはまだ国内の森林から木材を切り出し、加工して住宅などの資材として国内の木材が流通していたんです。
しかし、東京オリンピック(1964年の)のときに木材の輸入自由化が始まると、国産の木材よりも遥かに安い外国産の木材が入ってきたのです。
戦後の復興でたくさんの資材が必要となれば、そりゃ安い資材を使いますよね。それから安い外国産の木材の需要は高まり、逆にどんどんと国産木材の需要は減っていったのです。
そして国産木材の需要がなくなってくれば、林業に関わっていた職人さんは当然減ります。若いなり手もおらず決して多くない老齢な林業の職方だけでは森の間伐などの手入れも不十分となり、森はあるけど十分な国産木材が供給できるシステムが失われてしまったのです。
出典 林野庁 令和元年材需給表
日本の国土の70%は森林であるにも関わらず、木材の自給率はたったの30%そこそこしかないというのは悲しいものですね。
ウッドショックの要因① アメリカの住宅需要が旺盛である
アメリカでは、空前の低金利になっています。低金利で住宅が購入できるため、大勢の方が住宅購入をしている。
当然今までも木材の需要はあったのですが、木材需要が急激に増えたアメリカ向けに木材が流れてしまっている事、アメリカ国内での消費が非常に多いことが、日本向けに木材が円滑に入ってこなくなってしまっている理由です。
アメリカはそんなに需要旺盛なのか?#ウッドショック #木材不足 https://t.co/GaxIGcOOdd
— イエ家いえ!建築士のmacotoです (@archikoto) May 6, 2021
ウッドショックの要因② 中国の原木高買い
アメリカだけでなく中国も木材需要が旺盛です。
さらにいち早くコロナからの脱却を声明し、あらゆる産業がイケイケドンドンな中国では木材をどんどん購入しています。バイオマス発電のチップや梱包材に使用したり、様々な用途に木材が必要なんですね。
さらにびっくりしましたが、こんなにも木材不足に悩んでいる日本の木材も、国内消費でなく中国に輸出されているのです。「そりゃないぜっ」て思うかもしれませんが、原木を日本で売るよりも中国に売ったほうが高い取引されているのですから、売る側からすればより高い金額で売るのは当然といえば当然です。
ウッドショックの要因③ コンテナ不足
世界的にコンテナ不足と言われています。
昨年コロナで世界の経済が一時的に衰退し、コンテナの需要が減りました。船を動かそうとしても運ぶものがないからコンテナの需要が減ったのです。
そこへアメリカや中国などの需要増にむけコンテナが集まってしまっている為、世界的なコンテナ不足が起こっているのです。
当然、木材もコンテナなどで海外から運ばれてくるのですから、コンテナの問題でも日本に木材が円滑に入ってこないのです。
ウッドショックの要因④ 国産材を急に増産できない
木というのは、育ててから伐採してまた植林してと循環しています。このサイクルは30年とかそれ以上のサイクルで回っているのですが、国産材の需要が減ってしまった日本では、山の中はいる林道なども整備されず、荒れているのが現実です。
また生産ラインを再稼働したり、整備したとしても、今後また海外産の安い木材が普通に入ってきたら、また安い海外産の木材にシェアを奪われてしまう、という状況が考えられるため、そうなってしまっては今設備投資しても無駄になってしまう。ということで国産材メーカーも状況を静観しているのが現状のようです。
ウッドショックは家造りにどのような影響があるのか?
今起こっているウッドショック。
これから家造りを考えている方にはどのような影響があるのでしょうか?
住宅価格の上昇
国内に木材が不足しているわけですから、その木材の価格は当然値上がります。
日に日に価格が上昇し、その上がり幅もかつてない値上げとなっております。つい先日の日本経済新聞にも記事が掲載されていましたが、住宅木材価格が13年ぶりの高騰という記事が掲載されました。
ツーバイフォー材は今までの倍の価格となっており、在来木造に使用する木材も集成材などに使用されるラミナ材という部材の不足から、今までの2倍の金額に届くのではないのかというところまで高騰しています。
まだ、高騰した木材費を住宅価格に反映している会社は聞いておりませんが、この高騰した木材費をいつまでも住宅会社が負担していては会社が成り立っていきません。そのタイミングがいつになるのか?まだ住宅業界全員が様子を伺っている状況だと思います。
どこかで住宅価格に反映させることが始まれば、一気に日本の住宅の坪単価は上がるはずです。
工期が長くなる
今現在、プレカット工場に住宅の構造躯体を発注すると納期回答できなかったり、できたとしても3~4ヶ月後という回答がほとんどです。(ウッドショック問題が起こる前の納期は1ヶ月以下でした)
先日の日本木材新聞にも掲載されていましたが、プレカット業界の最大手であるポラテックという会社が、大規模な減産を発表しました。材料が入ってこないのですからそれを加工するプレカット工場とすれば「減産する」というのは当たり前のことです。
といっても家造りを楽しみにしているお客様からすれば、自分の家の構造材をいつになったら出荷してくれるんだ!っていう気持ちになりますね。
しかし、今現在の状況では静観するしかないのが実情ですから、家造りの工期が長くなるのは致し方ないのが現実です。
先日、プレカット業者さんと話しました。
「ご迷惑をおかけしているのは大変申し訳ございません。可能な限りご要望に答えるよう最大限の努力をいたします。しかし、納品までの日数が今までの状況とはかなり異なっております。よって余裕をもった(かなりの余裕が必要)発注をお願いします。」
この言葉どおり、住宅会社もプレカット業者も最大限の努力はするはずですから、お客様は可能な限り早めの間取り決定を行い、住宅会社やプレカット業者が早めの手配ができるようにしておくのが必要かと思います。
使用樹種の限定発注は難しい
柱などにはホワイトウッドと呼ばれる木材や米松や杉や桧などの木材が使われます。しかし、海外からの輸入が不安定な現在では、どうしてもこの木の柱で建ててほしい!と言って特定の材料を指名しても、全ての材料がが揃わない可能性が高いです。
私の周りの環境でも、一階の柱はWW(ホワイトウッド)の集成材、二階の柱はRW(レッドウッド)集成材というような、家一軒で材料の混在は普通に起きております。
さらに梁なども同様です。米松のKD材(乾燥材のこと)の不足や、集成材を造るラミナ材の不足から、大梁と小梁で使用樹種が混在するのはやむを得ないのが現実です。
材料が混在していても、最低限、JASの仕様を守った材料を使っていれば、構造的には問題ないと考えていただくしかないが悔しいところです。ホワイトウッドの柱などはあまり使用したくないものですが、特定の材料にこだわっていては家一軒の材料が揃わないのですから仕方がありません。
家の作り方が変わるかも?
根本的な家の建て方は、まぁ変わらないでしょうが、天井の作り方などは変わるかもしれません。
というのは、日本の住宅の天井を造るための下地木材である「野縁」という材料も不足しているからです。
つい先日も、プレカット業者さんから「野縁の追加発注はご遠慮願います」という通達が来ました。限られた材料を可能な限りの現場へ供給するための処置なのでしょうが、もし天井をつくる野縁が追加発注できなかったら天井を造るのをやめるわけにもいきません。
実際には住宅会社内で融通し、天井が作られないなんて状況は回避するでしょう。
しかし、この天井の作り方を変える可能性はあります。
軽天井と呼ばれる金属製の下地材で天井下地を組む手法が主流になるのかもしれません。
軽天井にしてもLVLにしても、一般的な野縁に比べ狂いや反りは少ないですから、メリットも多数あります。
今、家造りを考えている方にアドバイス
以上、2021年に起こってしまった「ウッドショック」について解説しましたが、今後家造りを考える方に私からのアドバイスです。
契約を焦るあまりに、悪い業者に捕まらない
「今契約してもらえれば、あなたの家の材料は確保しますよ」みたいな話で、強引な契約を迫ってくる住宅会社は怪しいと思ってもいいかもしれません。
昔から国産材で家造りをしていた工務店では今回のウッドショックの影響(材料不足の問題)はあまりありませんが、それ以外のほとんどの住宅会社は少なからず影響が出ているはずです。
木材が無い!と言って焦るお客様の気持ちを利用して契約を迫ってくるような住宅会社は、そもそもお客様の家造りに対する姿勢を疑ってもいいと思います。
工期は余裕を持って
海外の木材に70%以上依存していた日本では、今回のウッドショックの状況下では、どんなに強く言っても材料がないものは無いのが実情というのはご理解いただけたかと思います。
よって、大変申し訳ございませんが、あなたの家造りを依頼した住宅会社に対して、ある程度の(期間が読めませんが)工期が長くなるのは認めてください。
きっと、住宅会社さんも必死に木材確保に走っているはずです。自分の会社内で木材を融通し、ご契約の順番に従って材料を準備していくはずですから。
ローコストという家造りは考え直したほうがいいのかも?
「少しでも安く」というのは理解できます。
私だって、物を購入するのに少しでも安いものを探しますからね。
しかし、モノには適正な価格というのがあると思います。
今までの日本の木材流通価格は安すぎたのかもしれません。今問題になっている海外からの木材購入価格も、日本の購入価格が海外に比べやすいが故に木材が入ってこない(もっと高い金額で外国は買っている)のです。日本の内需が弱いがゆえにあまり高い金額で購入しても国内でさばけないという理由もあるようですが、少なくとも海外から比べたら日本の木材価格が安いのは現実なのです。
ニーズがない国内の林業を育てる為にも、ある程度のコスト増はやむを得ないのかもしれません。
一定の品質があれば、多少の不具合は受け入れてほしい
細かいところまでの苦情をゴタゴタ言わないでください、という意味ではありません。
木材というのは呼吸しています。湿気時には膨張し、乾燥時には縮みます。これによって部材の間に隙間などが発生する可能性があるわけですが、これを問題視するあまりに、狂いの少ない集成材が主流となったわけです。
今回のウッドショック問題の原因の一つにこのような日本の要求する品質の高さが問題にもなっています。
「日本は安い金額で非常に高い品質を要求する」という理由でアメリカの製材メーカーが日本への販売を止めているのです。
木材というのは自然界にある物質なのですから、完璧でないものも当然あります。
あなたの家にもしかしたらちょっと傷がある木材が使われるのかもしれません。しかし、それは大きな問題でしょうか?
きっと大きな問題では無いはずです。
なにか疑問があった場合は、住宅会社さんに聞いてみてください。プロとして判断し、問題のない材料を使っているはずですからね。
※例え下地材だとしても、強度が劣っている木材を使用するのは論外です。
まとめ
この記事を書いている2021年4月下旬時点では、ウッドショック問題は一部の新聞に掲載された以外はネット上の話題だけで、まだテレビではほとんど報道されていません。
これは私の私見なのですが、おそらくゴールデンウィーク後くらいにはテレビでも報道されるのではないでしょうか。
なんとなくですが、かきいれ時であるゴールデンウィークまではハウスメーカーなどへの忖度が働いているような気がして仕方がないのですが、この時期を過ぎれば一般的にも木材不足問題として報道されるのではないでしょうか?
また、今年の4月から始まった住宅の省エネ性能説明義務化やグリーン住宅ポイントを利用するために、今まで以上の高断熱化が必要となった住宅。昨年から続くリモートワークや巣篭もり需要に対応する間取りプラン、そして現在問題になりつつあるウッドショックに対応するための国産材への回帰と、2121年の家造りは新しい時代への幕開けになるかもしれません。
工期が延びることが予想されるウッドショック問題。グリーン住宅ポイントや住宅ローン控除などの期限が決められた制度の利用を考えている方は注意が必要です。
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