実験大好きな、建築士のmakotoです。
快適な住まいを造るためには、住宅の気密性能を高めることが有効です。気密性能が低い住宅では断熱材本来の性能を発揮できず、効率的な計画換気もできません。
住宅の気密性とは、「隙間相当面積」で表され、他にも「C値」と言ったりします。
その数値は「㎠/㎡」の単位で表し、数値が少ないほど気密性が高い(つまり隙間の少ない)家ということになります。
以前はこのC値が5㎠/㎡を下回れば気密が高い家と言われた時代もありましたが、現在ではそんな数値では話になりません。高気密化をうたう住宅では1㎠/㎡を下回るのは当たり前です。0.5㎠/㎡とかそのくらいの数値がでて、初めて「十分に気密性能が高いね」と言える住宅なのです。
気密性能は機械で測定することができます。
今回、気密測定した物件はどこにでもある今どきな「普通の家」です。
しかし、「普通の家」と言っても太陽光発電システムなどの創エネ設備と、高効率なエアコンなどを設置すればZEH基準をクリアする建物です。
いきなりですが、ここで皆さんに質問です!
- 以外に数値がいいんじゃない?
- いや、普通に造った家なんだから、話にならない数値なんじゃない?
答えは記事中に書きますが、やっぱり、その家の断熱性能を十分に発揮するためには、高気密化を考えて施工することが大切ということを改めて実感した結果となりました。
初めに、今回気密測定した物件のスペックを書いておきます。
- 延床面積 93.81㎡(28.37坪)
- 構造 木造軸組工法(剛床、壁全面に構造用合板を施工)
- 床断熱材 フクビ フクフォームエコ 厚さ80mm
- 壁断熱材 高性能グラスウール(アクリア) 厚さ100mm
- 天井断熱材 高性能グラスウール(アクリア) 厚さ100mm
- サッシ LIXILサーモスⅡ-H(LOW-Eガラス仕様)
今どきな「普通の家」の気密測定の準備
住宅の気密測定なんて、一般の方は見ることなんてないでしょう。
どんな風に測定を行うのかを順を追って解説します。
測定機械を窓に設置
そもそも気密測定とはどのような原理で行うのか?というと、家のどこか一箇所に専用の送風機を設置し、その送風機で室内の空気を室外に押し出します。その時の室内と室外の気圧差と風量から気密を測定します。
今回の物件では勝手口の彩風ドアにこの機械を設置しました。上記の写真で窓に突き刺さっている変な丸い物体が送風機です。そこから何本もの管や線がつながっているのが測定機械です。
測定前に大きな開口部はビニール等で塞ぐ
住宅には大きな開口部があります。
例えば換気扇。キッチンの換気扇などは空気を出す開口部ですから隙間があって当たり前です。このような大きな開口部をそのままで測定しても意味のないものとなります。
そのような開口部はビニールなどで塞ぎます。
他にもトイレの換気扇やお風呂場の換気扇などを塞ぎます。
この物件はまだ入居前ですので排水管のトラップに水が溜まっていません。よってキッチンの排水管も塞ぎます。
気密測定開始!一回目
準備が整ったら測定開始です。
機械にスイッチを入れると「ブブーン!」とファンが回り、室内の空気を押し出します。
さぁ、どんな数字が出るかワクワク!
が・・・・・
想定はしていたけど、測定者が次に発した言葉に、現場にいた全員が愕然としました。
「測定不可能です」
へ?
今回設置した機械は5㎠/㎡以下まで測定できる機械です。測定不可能ということは、この家の気密性が5㎠/㎡以上ということです。これではまったくもって気密性が高いとは言えない住宅ということですね。
まぁ当たり前です。
高気密化を狙って建てた家ではありませんから、気密性が低くて当たり前です。また、これでは「隙間だらけの家」といっても過言ではありません。
しかし、今回の実験はこれで終わりではありません。本来の目的はここからです。
「普通の家」の家中の隙間を塞ぐ作業
先程の測定準備の段階で換気扇や排水溝などの隙間をビニールなどで塞ぐ作業をしました。しかし、「普通の家」にはまだまだ隙間があるのです。
他の隙間はどこか?
答えは、コンセントやスイッチ、分電盤などの電気設備機器の開口です。他にも床下点検口や天井点検口、これらにもがっぽり隙間があります。
高気密化を狙って建築する住宅では、コンセント周りには防気カバーを使い、床下点検口にも高気密型を使用します。
この物件では、これら高気密化に対応した部材は一切使用しておりませんので、隙間があって当然なのです。
コンセントなんかでそんなに隙間があるのか?って思うかもしれませんが、実は一回目の検証のときに、コンセントに手をかざすと思いっきり風を感じるんですよね。
壁の中の空間とスイッチプレートを伝って風が入ってくる。
普通の生活をしている分には、このようにスイッチから風を感じることはありませんが、圧力をかければこのような小さい場所でも風は入ってくるのです。
ということで、検証の第二段階では、家中のスイッチや床下点検口などの隙間をテープで塞いでみます。
気密測定開始!二回目
高気密住宅では、コンセントやスイッチに防気カバーを使用し、点検口などには高気密型を使用します。
これら部材を使用していない「普通の家」の各場所を、テープで塞げば高気密化住宅に近づくはずです。
この状態でどれくらいの数値が出るのかが今回の検証の本来の目的です。
これである程度の数値が出れば、特に高気密化に対して気を配って施工していない住宅でも、防気カバーなど高気密化の部材を使えばより断熱材の性能が発揮できる住宅となるはずです。
ということで、期待に胸を膨らませ、二回目の測定開始です。
測定者の 「まぁまぁいい数字ですよ」という言葉に、一同「よしゃ!」となりました。
で、測定された数値は、
「1.3㎠/㎡」!
おお!
高気密化を狙って造っていない割には、良い数値です。決して威張れる数値ではありませんが。。。
正直言って、2〜3くらいの数値かなと思っていましたが、2を切って1に近い数字。もう少し頑張れば1㎠/㎡を切れるかもしれません。
しかし、この数字であれば「普通の家」と考えれば合格点でしょう。
なぜ、住宅の高気密化が必要か?
住宅の高気密化を勧める理由は主に3つあります。
- 断熱材の性能を十分に発揮するため
- 熱の損失を抑制し、冷暖房効果を高めるため
- 計画的な換気を行い、匂いや湿気を管理するため
いくら高性能な断熱材を使用しても、隙間がある住宅では冷たい外気が入ってきてしまいます。またどこから入ってくるかわからない隙間があるようでは、冷暖房の機器をフル稼働しても機械が頑張っているだけです。さらに隙間があれば外の匂いや湿気も一緒に室内に侵入し、カビなどの発生のおそれがあります。
わかりやすく言えば、お湯を保管する「ポット」をイメージしてもらえればわかりやすいかもしれません。中に入れたお湯の周りをしっかりした断熱層で囲み、蓋をしっかり締めたポットではお湯は冷めにくいです。
しかし、蓋を開けておくとどうでしょう?
ポットのお湯は冷めやすいですよね。隙間がある家はこれと同じようなものです。
隙間が少ない家、気密性能(C値)が小さいいでは、断熱材の性能をより発揮しやすく、エアコンなどの冷暖房効率も高まるのです。
高気密化の為の住宅部材
住宅を高気密化するために使用する部材はこのようなものがあります。
防気カバー
記事内でも書いたとおり、スイッチやコンセントの穴からの空気の出入りは馬鹿になりません。ここの隙間を少なくする部材は「防気カバー」です。
コンセントの壁の中に埋まった部分をビニール部材で穴を塞ぐ部材です。コンセントにつながるケーブルは、穴を開けて通します。
出典 Panasonic 高気密・高断熱住宅部材より
高気密型点検口
床や天井につける点検口にも、隙間が少ない高気密型があります。
高気密型点検口は、隙間なくぴったり閉めれる蓋のイメージですね。
出典 城東テクノ 高気密型床下点検口カタログより
熱交換型換気システム
住宅には換気が必要です。
シックハウスの問題でも換気設備の設置は義務づけられていますし、健康的な生活をおくる為にも外の新鮮な空気を室内に計画的に入れなければなりません。寒いからと言って部屋の窓をずっと閉め切っていては気分も冴えないでしょう。
例えば、換気口から新鮮な外気を取り入れる際に、外の冷たい空気がダイレクトに入ってきてしまう状態では、せっかく温めた室内の温度が冷えてしまいます。(夏の冷房も然りです)
この換気の際の熱損失を最小限に抑えて換気をしてくれるのが「熱交換型換気システム」です。
熱交換型換気システムはダクトを家中に張り巡らせ換気をおこなうタイプと、ダクトのない部屋ごとに換気を行うタイプがあります。オススメはお掃除の手間が簡単なダクトレスタイプの熱交換換気システムですね。
高気密型ダウンライト
天井に取り付けられたダウンライト。これも天井に穴をあけて取り付ける部材ですから、この穴の隙間も少なくしなければなりません。
ダウンライトには、M型、S型(SB、SG、SGI)などの種類がありますが、S型のダウンライトは断熱施工型のものです。M型ではなく、断熱材の施工方法に合わせてS型ダウンライトを選びましょう。
出典 KOIZUMI 高気密型ダウンライトSB型
今どきな「普通の家」を気密測定してみた まとめ
今回、気密性能を検証した結果はどのように思いましたか?
あなたが、もし長期優良住宅やZEH基準と呼ばれる住宅を購入するか、建築しようとしているならば特に注意が必要です。
なぜなら、これらの住宅の基本性能の基準に「気密性能(C値)」は定められていないからです。
長期優良住宅をうたう仕様であれば、必然的に気密性能もそれなりに高い施工方法で建てられた家でしょうが、今回測定した物件のようにZEH基準と言っても高気密化を考えずに施工した物件も多数あるでしょう。
でも、スイッチや床下収納庫に高気密化の部材を使用せず測定したら「測定不能」となったように、実は隙間だらけの家であり、せっかくの断熱材の性能も発揮できていない住宅なのです。
せめてZEH基準を満たすような住宅であるならば、高気密化も考えて施工したいものですね。
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