一向に改善の見込みが見えない「ウッドショック」。
業界の中では7月、8月、9月と夏から秋にかけて、その逼迫度はかなり高まっていくとの話で持ちきりです。毎日毎日情報が入れ変わり、「いい方向」に変わるのならまだしも「悪い方向」に変わる話ばかり・・・。
その逼迫度は過去に例を見ないほど最悪な状態です。
どこの工務店の資材担当者も「なんとか材料をかき集めろ」、「少しでも安く材料を手に入れろ」と毎日駆けずり回っているはずです。
このような状況下で、高騰した木材費をいつまでも工務店が負担していると、そう遠くない時期に会社の方が先にダウンしてしまうのは目に見えています。また工務店の木材調達がスムーズにいかず、予定したどおりの工期で進められない現場もすでに出ています。
そんな事は知ったこっちゃない!こっちはお客だぞ!請け負った会社の方がどうにかするのが当たり前だろ?
と、思われるかもしれませんが、日本中で、いや世界中で需要が高まっている木材を、ひとつの工務店が自由にコントロールできる話ではないのです。材料がないものは無い。また無いが故に価格が高騰してしまうのは仕方のないことなのです。
この影響で、家造りをされるお客様と「樹種や工期の変更及び請負金額の変更」に同意してもらう為の「合意書」を、建物契約時に取り交わす工務店もあります。
出典: 新建ハウジング HP記事
果たして「合意書」なる書類にサインしてまで、このウッドショック渦に家を建てる意味はあるのでしょうか?
合意書に書いてある内容とは?
住宅会社によって、合意書に書かれている内容(文言)は若干異なります。
しかし、今回のウッドショックによって懸念される事項についてお客様に合意を求める書類ですので、大筋の内容は共通しています。
- 樹種の変更
- 工期の延長あるいは変更
- 請負代金の変更
樹種の変更って、何に変わるの?
木材というのは樹種(木の種類)によって強度が異なります。以前から住宅の梁(2階の床などを支える水平方向の木材のこと)には「ベイマツ」が使用されていました。
上棟したお家を見たことがある方がいらっしゃれば、その時に見た梁はおそらく「ベイマツ」です。最近ではこのベイマツを杉に変更する場合があります。杉はベイマツに比べ強度が劣るため、同じ強度を持たせようとすると太く大きな材料が必要です。
日本の昔の住宅には杉の梁が使われていました。問題のない太さがあれば杉でも大丈夫です。
このように材料の特性を理解し、適材適所で使用すれば樹種の変更があっても大部分は問題ありません。
また柱に使用していたレッドウッド(欧州赤松)はすでにレアアイテムとなり入手困難です。代替え品としてホワイトウッドや杉を使用しますが、ホワイトウッドは加工がしやすい反面、耐朽性が低いため腐りやすいという特徴があります。ホワイトウッドの場合は集成材であればOKでありますが、シロアリに対して弱い傾向があるため、防水対策や防蟻対策をしっかりと施すことが重要です。
間柱(柱と柱の中間にある木材)はホワイトウッドのKD材(乾燥材)やレッドウッドの集成材が広く使われています。これらも代替え品として杉の集成材などが使われます。さらに最近ではポプラのLVL材まで使われ出しました。ポプラLVLでは水濡れなどにより黒ずみなどの変色が起こる場合があります。
屋根の下地材である垂木も代替品が使われはじめました。ベイマツのKD材だったものが杉に変わったり、KD材ではなくグリーン材(乾燥工程の途中の材)を小屋組みだけ使用する会社もあります。
「KD材」とはKiln Dry Woodの略語で人工乾燥材のことを言います。対して「グリーン材」とは乾燥工程が十分でない材のことを言います。
部屋に面していない小屋組み(ざっくりいうと屋根の下地ことです)では、グリーン材を使用したとしても乾燥による反りなどが仕上材表面に影響しないため、それほど気にしなくてもいいでしょう。
樹種 | 特徴 |
ホワイトウッド(欧州唐檜) | 軟質で加工がしやすい 乾燥による収縮は少ない やや耐朽性に劣る |
レッドウッド(欧州赤松) | 軟質で加工がしやすい 耐朽性が高い |
杉 | 柔らかく強度は桧に劣る(太い材を使えばOK) 日本の代表的な樹種のため入手しやすい |
桧 | 比重は軽く柔らかめ 保存性に優れている 杉に比べ曲げ強度・引張強度と共に優れている |
ポプラ | やや柔らかく加工がしやすい 耐久性は低く、虫の害に弱い 成長が早く供給が安定している |
また、在来木造工法ではありますが、柱と梁などの接合部を金物を使用し接合する「金物接合工法」を採用している場合、一般的には集成材の梁や柱を使用します。しかしベイマツなどの梁に比べ、集成材が確保できにくくなった今では、金物接合工法から一般的な在来木造工法に切り替えている会社もあります。
同様にツーバイフォー工法を採用していた会社でも在来木造工法に切り替えている会社も増えてきています。
工期の延長
どこの工務店だって、家造りのプロです。その住宅建築に使用する木材量は把握できます。
しかし、工務店がいつどのタイミングで住宅の木材を調達するかご存知でしょうか?
大手ハウスメーカーでは異なりますが、中小工務店では施主からオーダーを受けて初めて木材を発注します。そして図面が確定していなければその家に合わせた木材が準備できないのです。
ゆえに契約した段階では、その工務店の倉庫にはまだ木材はありません。(多少の備蓄木材はあるはずですが・・・)
絶対的な供給量が不足している現在では、発注してから納品されるまでの期間がかなり長くなっています。このような状況では「工期がずれる」、「工期が長くなる」のは必然なことです。
請負金額の変更
冒頭に申し上げたとおり、日に日に木材価格が高騰しています。それもかつて無いほどの上がり幅で、いつまでこの影響が続くのか全く読めない状況です。
このような状況では、お客様と住宅会社が請負契約を結ぶときに想定した木材価格と、住宅会社が木材を発注し納品されるタイミングの時の木材価格にズレが生じます。
ある程度の金額であれば住宅会社が負担するかもしれませんが、一定のレベルを超える金額の増加分までを住宅会社が負担しきれません。よって木材が納品され、住宅会社のプレカット業者に支払う金額に応じてお客様にも負担をお願いするということになります。
お客様にとっては納得がいかないことでしょう。
通常時であれば発注前に木材価格の見積書が出てプレカット業者に発注する流れでしたが、ウッドショックの騒動が始まってからは、木材を発注して納品がされた時にプレカット業者に支払う金額が確定する場合がほとんどになってしまいました。なぜならプレカット業者も製材卸し業者から購入する木材価格が「時価」みたいな感じなってしまっているからです。
それくらい木材価格が変動し高騰しています。
住宅会社が前もって木材を購入すれば、その時の価格で家を造れるんじゃないの?
そう思う方もいらっしゃるでしょう。
間柱や野縁などのどこの家でも使用する共通木材は、ある程度まとめ買いしておくことも可能でしょう。しかし、中小規模の工務店では「材料を確保しておく倉庫が無い」、「管理するスタッフがいない」、「そもそもまとめ買いができるほどの流通量がない」、などと言った理由で難しいのが現状です。
また柱や梁などの構造材は、家の間取りに合わせて(設計図面が出来上がって)発注します。家ごとに間取りが異なるのと同じで、間取りが異なれば使用する梁の太さや本数が異なる為に、中小規模の工務店が木材を事前に準備しておくのは現実的ではありません。
合意書に絶対にサインしなければダメなのか?
絶対に合意書にサインしなければダメということはありません。ご自身でよく考えてサインしてください。
しかし、サインをいただけなかったお客様は後回しになる可能性があります。
この判断基準は工務店によって異なるでしょうが、あとあと揉め事になるのを避けるために勝手な樹種の変更はできないのだけれども材料が入ってこないから工事が進まない→それならば材料がしっかり揃ってから着工する、という風に建ててから苦情を言われることを避ける為です。
工期の延長にも同意してないよ
確かに合意書にサインをいただけなかったのですから、工期の延長に同意していないのでしょう。でも無いものはないのです。
どこの工務店でも最善は尽くします。プレカット業者も製材卸し業者も同様です。
材料が無いからと言って構造に適していない材料を使うような工務店などあるはずがありません。お客様に末永く使っていただける安心の住宅を提供するために、工務店ごとに考えは異なるかもしれませんが問題のない材料を使って家を造るのです。
合意書にサインするときに注意するポイントは?
合意書にサインする時に注意していただきたいポイントです。
「必ず、説明を受ける工務店のスタッフに合理的な回答を求めてください」。注意するポイントはただこれだけです。
なぜなら家造りというのはお客様と家を造る工務店側との信頼関係から成り立つものであり、お客様のことを考えている工務店ではウッドショック渦でもお客様に対して合理的な回答ができるように準備しているはずだからです。
工務店側からすればお客様に末永く住んでもらいたい家を提供します。その考えであれば下手な材料は使いません。樹種の変更をするにしても、その工務店が考える合理的な理由で材を選びます。
工期の延長についても同様です。「お客様の家に使用する木材を確保するために最善を尽くしている、しかしどうしても材料が揃わないのでもう少し工期をずらし、材料を確保する時間をください」という状態での「お願い」なのです。
このような考えが営業スタッフ、設計スタッフ、現場監督にまで浸透している会社であれば、誰に聞いても明確な回答があるはずです。
工務店のスタッフが親身になって回答してくれなければ信頼なんてできませんよね?
まとめ
合意書にサインをしたくないのであれば、そもそもその工務店との契約はやめたほうが無難です。家を建てる時期をずらすか、合意書が必要のない工務店を探しましょう。
というのは、サインしなかった場合は後々必ずトラブルに繋がり、なんとか完成までこぎつけたとしてもギクシャクした関係になってしまうはずだからです。
どこの工務店だって、こんな書類を使いたくはありません。しかし、合意書にサインを求めるくらいですから、その工務店にはその時点で少なからず影響が出ているから「お願い」しているのです。逆に影響が出ていないのであれば合意書なんて書類は登場しないはずです。
合意書への最終的な判断はお客様自身でしなければなりませんが、工務店側の家造りへの姿勢も問われる書類なのです。
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