「当社は構造に自信あり!」
今や、こんな謳い文句では木造住宅は売れません。
だってね、構造に問題ないのは当たり前の時代ですから。昔とは違う。
「当社はオール4寸柱です!」やら「大黒柱に8寸角採用!」なんて自慢していたのは「はるか昔」のこと。
そんなもん、誰も興味ないでしょ?っていうか、今の時代そんなこと宣伝していたら、じゃあ昔は駄目だったの?って逆に突っ込まれたり、「だから何?」って言われかねない。
今日は、冬の寒い気候に耐えながら新築住宅の現場で金物検査を行い、ふと、当たり前が当たり前じゃない場合もあるのにねぇ・・・?って考えてしまった私です。
金物検査って?
建築士として、木造住宅の現場監督として、設計者として、といろいろな顔で現場に行く私です。
今日は「建築士」として金物検査に行ってきたわけですが、木造住宅の金物検査ってご存知ですか?
ただ「緊結金物がある」のを見るだけじゃない。
柱と梁、梁と梁、主要な構造材とスジカイなどの構造上重要な材料との緊結(接合のこと)は、一般的に金物を留め付けてお互いの木材を接合します。
この写真は柱とスジカイを接合している「スジカイ金物」ですが、ただ取り付ければいいってもんじゃない。金物にたくさんのビスが留まっていますよね。この本数が規定の数なければダメなんです、当たり前ですが。
「なんかビスが留まっていないところにも穴があるよ。そこにもビスを打ち込まなければダメなんじゃない?」
って思う方もいるかもしれませんが、これはこれで正しいのです。
この穴は、スジカイの傾き角度や柱に対して取り付ける位置によって融通がきくように、金物に予め穴がいくつも空いているのです。
金物検査はこういう事も知っていた上で細かいところも念入りにチェックする。
つまり、金物検査っていうのは「ただ取り付けられている」というのを見るだけじゃなく、その使用方法(ビスの位置や本数)もしっかり検査するわけです。
これは梁を接合する羽子板ボルトなどでも同じ。ナットがしっかり締まっているか?締め忘れがないか?ってね。火打ち金物やアンカーボルト、柱の柱脚や柱頭に取り付く金物、垂木を留め付ける金物まで、細かいところをすべて念入りにチェックします。
ちなみに30坪くらいの2階建て木造住宅で使用される柱の本数は、ざっと100本(1,2階合わせて)くらいです。
これに取り付けられている金物の数は・・・・。
柱だけで100本ですから、金物の数が無茶苦茶多いっていうのは想像できますよね?
10分やそこらじゃ終わらない。何時間もかかるわけですよ、検査に要する時間はね。
ぶっちゃけ、「忘れる」こともある
大工さんだって「普通の人」です。機械じゃない。
だから忘れることはあるんですよ。規定の本数打ってなかったり、ボルトを締め忘れたり。そんなに数は多くないけど、私も年間にすれば2~3回くらいそんな現場に出くわしたことあります。
まぁ、それをチェックするのが建築士や現場監督になるわけですが、さらにぶっちゃけですよ・・・、現場監督すら見ていないことがある。
マジで。
現場に5分くらいしか滞在していないのに「あぁ、あるね、いいね、大丈夫だね!」ってあっさり「OK!」を出す現場監督。全国で考えたらいくらでもいると思いますよ、そういう現場監督って。
きっとあなたのそばにも必ずいる。
だってめんどくさいですからね、そんな細かいところをチェックするのは。
それでも「耐震等級3」というのは如何なものか?
最近の住宅会社は「構造に自信あり!」なんて言葉は使わないで、「耐震等級」という言葉を使います。
これは性能表示制度で認められた耐震性を有する建物だけが使える言葉ですが、こういう言葉聞くと一般の方は安心しますよね。
公に認められた耐震性能を有する建物ってことですから。
でもね・・・、先程書いたとおり、木造住宅の接合部に使われている金物が「ゆるゆる」ではなんの意味もないんです。
当たり前です。
世の中、耐震性能を謳いながら、細かいところまでチェックまでしている会社がどれだけあるか?
まぁ、ちゃんとやってますよ、ほとんどが。しっかり写真も撮影して念入りに検査官がチェックし履歴を残しているのが住宅会社ですよ。
でもね、その逆も必ずある。
見ていない住宅会社は必ずある。
見ていない現場監督も必ずいる。
めんどくさくなって手を抜く大工さんだって必ずいる。
それが故意じゃなくても「うっかり」は必ずある。
写真すら撮影していない、検査チェックリストさえない会社だって、きっとある
どう思います?そんな状況で「当社は耐震等級3です!!!」って言っている会社は。
見えない所にも時間をかけなければプロじゃない
冒頭に書いたとおり、基本の構造がしっかりしているなんて当たり前の時代です。
現代はどうしたって「デザイン」に興味が惹かれますから、みんなデザインについて宣伝する。
「モダンなカッコいい住宅です!」「ナチュラルテイストの私らしい暮らし!」「遊びを生活空間に!」なんてキャッチコピーがズラズラと並び、その横に耐震等級3です!って書いてあれば売れる時代。今はこれに省エネ性能も重要ですけどね。
くどいですが、いくら耐震等級を取得していても細かいところがなってなければ「3」どころか「1」にも満たない。逆に耐震等級を謳っていなくても、クソ真面目に細かいところまで気を使って構造体を組む会社もある。
書類だけあれば、実際の現場でナット1個締め忘れていたとしても「等級3」なんて変じゃない?
なんか「言ったもん勝ち」みたいな風に思うのは私だけじゃないと思うんだけどなぁ・・・。きっとそのうち何かやらかして謝罪会見なんてものを開かなければならない住宅会社が出るんじゃない?
そんな風に思いながら2時間かけて検査してきた今日でした。 おわり!
耐震等級に惹かれて契約する時に、必ず過去の住宅履歴を見せてもらうのも重要です。
しっかりしている会社はサッと出してきますよ、そんな書類。
まごまごしているようなら怪しいと思ってもいいくらい(ちゃんとやっているけど単に時間がかかる場合もありますけど)
まぁ、いずれにしろ、そんな素人にはチェックできないところも重視しているかどうかくらいは聞いておいたほうが無難でしょうね。
ちなみにいくら耐震等級3を取得していても、実際の地震で倒壊してしまった建物もあるの知ってますよね?
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