木造住宅では耐震性を高めるために最低でも壁量計算などの軽微な計算を行う必要があり、耐震性の確保は建築確認申請時にも義務付けられている項目であります。
しかし、制震ダンパーの取り付けは法律で義務付けられているものではありません。
また、住宅の品質確保促進法(通称 品確法と呼ばれる)による耐震性をランク付けする耐震等級のような制度も今現在はありません。(今後、制震ダンパーをランク付けするような動きもあるようですが・・・)
住宅会社によっては制震ダンパーを標準搭載しているところもあるようですが、言ってみれば家を建てる人の各自の自由であり、公的にその制震性能を証明する制度さえも無いという住宅部材です。
しかし、私の関わる物件では全てのお客様に制震ダンパーをお勧めし、施工させていただいています。
「そんなものいらないよ」と言われるお客様も当然いらっしゃいます。設置コストが掛かるから当たり前ですね。
しかし、制震ダンパーを勧める理由を伝えると、だいたいの方は了解していただけます(渋々なのかもしれませんが・・)
- 建築基準法で要求される耐震性能は最低限の基準であるから
- 一発目の地震で倒壊しない耐震性を有するのは当たり前であるが、さらに繰り返しの揺れに耐える耐震構造が重要であるから
- 「想定外」と言われる自然現象が、いくらでも起こりうるから
確かに、公的に制震性能を証明できません。専門家でない一般の方はメーカーが独自に(大学等で)実験したデーターを見て、その性能を判断するしかありません。
実際に地震がきてみないとその制震ダンパーが有効であるかどうかなんてことはわかりませんが、最近起こった熊本地震では制震ダンパーが搭載された住宅で被害が少なかったことが確認されています。
「制震ダンパーを搭載すれば住宅の被害がゼロです」とはいいません。しかし少なとも搭載していない住宅よりかは被害が少ないことは最近の大震災で確認されているのです。
住宅はあなたの命を守る砦です。ぜひ、あなたの家に制振ダンパーを採用することをお勧めします。
話が長くなりましたが、この記事はその制震ダンパーを実際に住宅に取り付けた時の施工レポートです。
制震ダンパーは壁の中に隠れてしまう部材ですから、施工風景をみる機会は少ないかもしれません。さまざまな制震ダンパーがあり、施工方法も部材によって異なりますが、制震ダンパーを検討する際のイメージ造りとしてこの記事を見ていただければと思います。
今回施工したのは摩擦制震ダンパーです
制震ダンパーには様々な種類のものがあります。
- 鋼材系ダンパー
- オイルダンパー
- 粘弾性系ダンパー
代表的なものはこのようなものがありますが、今回の物件で施工した部材は、見た目は鋼材系に見えますがそうではなく、摩擦を利用した制震ダンパーです。
製造メーカーは誰でも一度は聞いたことがあるであろう「3M」スリーエムジャパン株式会社です。商品名は「3M木造軸組用摩擦ダンパー」です。
商品カタログにはこう書いてあります。
制震用途に開発された摩擦材をK型フレームに組み込んだ制震装置です。地震時に摩擦材を組み込んだダンパー部が滑り、地震エネルギーを熱エネルギーに変換することで地震の揺れを吸収します。これは自動車のブレーキと同じ原理です。ダンパー部が滑る前は、高剛性の耐力壁として機能します。
「3M木造軸組用摩擦ダンパー」カタログより引用
この制震ダンパーは、自動車のブレーキと同じような原理で地震の揺れを吸収する仕組みということなんですね。
また国土交通大臣認定の壁倍率5倍を取得している商品です。つまり、一般的なスジカイと同じようにこの部材を設置した壁を耐力壁として計算できるということになります。
では、施工風景を見てみましょう。
部材の重さは約16kgあります
この段ボール箱一個に商品が1セット入っています。初め見たときは結構コンパクトな梱包で意外でした。
でも持ってみるとズッシリ!
「これは只者ではないぞ!」という感じの重さです。あとで知りましたが1セット約16kgもあるそうです。
1セット約15分で施工完了!
この柱と柱の間に施工します。
まずは柱と床合板、柱と梁に対して角金物を取り付けます。角金物を取り付けるのは四角でなく、なぜか3箇所。
この角金物もダンパー部も斜材部分もすべて専用ビスで固定します。
次にダンパー部を柱に取り付けます。(横架材間の中央に)
このダンパー部だけでもズッシりとした重さがあります。(約4kg)
次に上方向と下方向の2本の斜材を取り付けます。ダンパーとは5本のボルトで固定します。
ん?
もう終わり?
はい。今回初めて施工しましたが、施工作業はものの15分ほどで完了しました。
40坪程度までであれば一軒あたり2セットでいいそうですので、同じものをもう1セット施工して完了です。
一軒あたり、施工時間は約30分。
かなりスピーディーに取り付けられますから、これは施工する側からもうれしい商品ですね。
3M木造軸組用摩擦ダンパーの魅力
鋼材系の制震ダンパーは、金属の疲労による破断が気になります。まぁ大丈夫なようにメーカーは実験をしているのでしょうけど、繰り返しの地震にどこまで耐えられるのか心配です。
オイルダンパー系はオイル漏れを起こしてしまえばなにも効果を発揮しません。ましてや壁の中に組み込まれる制震ダンパーは目で見て点検することもできません。
ゴム系のダンパーでは温度による性能変化が気になります。これだけ異常気象が続いているのですから「気温40度!」なんて日が続いた時にはどうなんでしょうか?(これもメーカーは実験で確認しているでしょうけど)
これらのデメリットをある程度克服したのが今回施工した「3M木造軸組用摩擦ダンパー」です。
といっても、これを誰でもわかりやすく比較検討する公的な制度がありませんから、最終的には各自の判断しかないのが制震ダンパーの悩みですが・・・
でも、どんな制震ダンパーでもしっかり「仕事」はしてくれるはずです。実際に地震がきてから後悔する前に、ぜひ何かしらの制震ダンパーを採用してみてはいかがでしょうか?
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