私の職業は建築士です。また建築士は現場で作業はしません。建物を設計するのが仕事です。
「設計」という言葉の中には、設備的な設計もあれば、デザイン的な設計もあります。これらを施主のニーズを理解した上で、図面化し現場で作業する基となるプランを作成するのが建築士です。
世の中、建築士の免許を持っていても設計の仕事をしない人もいます。現場監督だったり営業だったりするわけですが、この建築士を目指す若手が減ってきていることよりも、目に見えて減ってきたなと思うのが「職人」です。
今回の記事は、職人に関するただの「建築士のツブヤキ」です。
でも、これでいいんでしょうかね?
職人さんが減ってきている
昔は大工さんと言えば花形の職業でした。木造住宅の柱や梁などの骨組みから自分で加工し、現場で組み立てる。その木材と木材が合わさる加工は本当にスゴイ技術だと思います。そしてさらに現場で見事な木材加工を施し、立派な造形美を見せてくれる「本物」の大工がいたものです。
しかし、最近の木造住宅ではプレカット加工と言いまして、専門工場で骨組みの殆どを加工してしまう。そのプレカット加工機の機械もすごい技術ではありますが、このプレカット加工の普及により、現在の大工さんはぶっちゃけ昔ほどの技術が無くても成り立つ職業となってしまいました。今や木材を精巧に加工できる大工さんなんて、かなり減ってしまったのではないでしょうか?
他の職種でもそうです。左官職人といえばモルタルなどの半固形の材料を巧みに使用し、塗り壁やタイル張り、あるいはきれいな土間を作る職種ですが、この職種も壁に至ってはサイディングなどの板状の壁材が主流になってしまい、塗り壁の需要はほとんどなく、左官職人の出番が無いのが現状です。巧みなコテさばきで作る内壁などもビニールクロス材などにシェアを奪われ、コストと時間の掛かる塗り壁などは、ほとんど採用されなくなってきています。
現代の住宅に求められるのはコストと同時に機械的な精巧さ
建物とは現場で人間が作業して作るものです。いくら熟練の大工が加工した木材でも、現代の精巧な機械で加工したものと比べると、ミリ単位での正確さには勝てません(偉大な宮大工とかは除きます)。
また、人間が作業する時間と機械が作業する時間では大きな差があるのも当たり前です。プレカット工場で家一件分の構造材を加工する時間は、ほんの数時間です。このスピードに人間が勝てるわけがありません。
そして、会社組織で住宅を提供するとなれば、生産力が求められます。またその生産をする際にいかにコストを抑え、より多くの成果物を出すかを追求しなければ、その住宅会社はつぶれてしまいます。
CMでもやってますよね。日本で一番生産している住宅メーカーが一日に生産する住宅は100棟です。たった一日で100棟ですよ!
よって現代では、熟練の大工が丹精込めて時間を費やしてこなす仕事よりも、短時間で簡単でありながらも一定の精度がある仕事が求められるのです。
腕のいい職人さんが減るのも当たり前なのかもしれません。
カンナやノミなんて道具は今の木造住宅の現場ではほとんど登場しません。職人さんが作るものが、工場で生産された床材や建具などの精度とコストに勝てない現代では、現場で大工さんがせっせとカンナで木材を削る時間さえ待てないのです。
また造作材(廻り縁や巾木など)などの細かいパーツなんかでは、ざっくり切って切り口をプラスチックのキャップで隠す有様です。(昔は、留め加工と言って、お互いの部材を斜め45度にカットして擦り付ける加工が一般的でした)
室内の壁に使われるビニールクロスの多種多様な柄も見事なものです。昔、職人さんがせっせと板を張って作った板張りの壁も、遠目で見るビニールクロスの綺麗さには勝てません。しかもその綺麗さを作る時間は雲泥の差があるのが実情です。
現代のコストとスピードを重視する住宅業界では、熟練職人の「いい腕」はもう必要ないのです。
いかにコストを掛けずに、きれいにパーツを組み合わせるか?
我々のような建築士も、以前の職人の腕に期待する設計から、工場生産された部材をいかにロス無く組み合わせるか? の設計に変わってきていると思います。
私が若い頃の現場では、大工さんから「こうやって作るんだ」って教えてもらうことがたくさんありました。しかし現在では逆に大工さんから「これ、どうやって組み立てるんだい?」って聞かれます。
メーカーが膨大なコストを掛けて開発した精巧な新しい部材なんて、一大工さんには理解できないのです。それが一年ごとに新製品が出てくるような状況では、現場で働く職人にはついていけないでしょう。
ですからデスクワークである建築士が、いかにきれいにロス無くパーツを組み合わせる設計図を作るかが重要になってきています。
このままでは日本の伝統技術が消滅する
一般の方からすれば、今でも「大工さんというのはスゴイ技術を持った職人さん」というイメージがあるのではないでしょうか?
批判があるのは重々承知の上で申し上げると、そんなに熟練な技術は現代の大工さんに必要ありません。それよりもスピードです。
あなたも現場で見たことがあるのではないでしょうか?若い大工さんだけでやっている現場や外国の方が作業している大工現場を。それこそ一日に100棟も生産するような現場では、熟練の大工ではそのスピードに付いていけません。
このような現場で作業している職人さんを馬鹿にするわけではありません。現代の考えがそうせざるを得ないのですから。
しかし、こんな状況では日本の一般住宅でも発揮されていた木造伝統技術を継承する若手が育ってきません。
会社組織で職人を育成している会社もあります。しかし生産性を求める現代の日本では大きな成長は望めません。
建設現場で働く職人さんは、汚い・きつい・危険の職業です。おまけにコストカット。
昨今の働き方改革で、ほんの少しだけ現場でも改善はされてきていますが、生産性とコストを重視された現場の職人さんの給料が良いはずがありません。
よって職人になろうとする若手がいないのは当たり前です。それよりもデスクワークで一定の給料をもらって仕事するほうがよっぽどマシですからね。
ちょっとだけでもいいから現場で作業する職人さんのことを考えてみてください
某巨大ハウスメーカーのように工場生産された家を否定はしません。日本人はそういう精密なものが好きですからね。
でも、時間はかかっても熟練の職人が魅せる技術は、これに勝るとも劣らない魅力があると思います。
人と人のつながりで作られる家。そんな家を私はつくりたい。
「なによ!この隙間は?どういうことですか!」
っていう気持ちもわかります。でもそれってそんなに致命的なものでしょうか?
「なんでそんなに時間かけて作ってるんですか!」
我々住宅屋は工期を守らなければなりません。でも職人さんの仕事時間を削ってまで達成する工期はちょっと違うのではないでしょうか?
このままでは、誰でも作れる家を量産するだけです。家を購入検討する方もちょっとだけ職人さんのことを考えてみてください。そうすれば職人を目指す若者がちょっとだけでも増えると思うのです。
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