地震列島である日本。いつ巨大地震が来てもおかしくはありません。最近では熊本地震などがありましたね。その前には東日本大震災がありました。どちらも誰も予測していなかった災害です(予知していた人がいたらごめんなさい)
私はそのどちらの地域にも属していなかったため、実際に被災はしておりませんが、建物に被害が出て被災された光景を見ると、建築に関わる一建築士として「なんとかできなかったものか?」 とつくづく思います。
誰でもそうでしょうが、実際にその場に居合わせて体感していないと実感が湧かず(自分は大丈夫!と、なんとなく思っていませんか?)、家造りにおいてはどうしても「見た目」が第一優先になってしまうことが多いかと思います。
家は人の暮らしを守るものです。人の命や生活を守る砦です。
現代においては家がなければ、なにもできません。しかし家さえあれば、家族が集まる場所がある、次の行動にでる鋭気を蓄えれる、ものだと思います。極端に言えば、家さえあればどうにかなるものではないでしょうか?
つまり、被災しても家がある、最低限の生活が出来る場所を準備しておくことが大切です。
今回の記事では、その耐震基準の一つの目安となる「耐震等級3」のススメについてお話します。なぜ建築士がすすめるのか?よく考えて見てください。
地震に強い家とは?
当社の家は丈夫ですよ!柱はこんな太いものを使っています!
なんて言われても、一般の方には「本当?」って思いませんか。そのとおりなんです。いくら太い柱を使っても強い家ではありません。太い柱の家=地震に強い家 ではありません。
現代の木造住宅では、柱や梁などの構造体は当たり前であり、その構造体に加わった地震力をいかにいなすか?が重要な考え方となっています。
木造住宅の耐震の考え方
日本における木造住宅(一般在来木造工法)は、柱と梁(横架材)などの部材によって構成されています。
柱(縦方向の木材)に梁(横方向の木材)を取り付けて、それぞれを組み合わせて家の形を作っていきます。当然、ただ木と木を組み合わせただけではスポッと抜けてしまいますから、金物(羽子板ボルトやそれに変わる金物)でお互いを緊結します。しかし木材を組み合わせただけでは耐震性は確保できません。
ここで考えてみてください。ただ柱と梁を組み合わせた形と、その中に斜めの木材(スジカイと言います)を組み合わせた形では、横からの力に対してどちらが強そうですか?
そうですね。
斜めの木材がある方が、斜めの部材が突っ張り棒のような役目をしてくれて壊れにくいイメージがありますね。この考え方で家の中にも斜めの木材(スジカイ)が配置され横方向からの力に対抗します。昔は基本的な考え方はこれだけで良かったのですが、平成12年の建築基準法改正で、ただ斜めの木材を配置しただけでは強くありませんよ、という考えになりました。
というのは、その斜めの木材(スジカイ)が家全体に配置されている場所のバランスがいいかどうか? もう一つは横からの力が加わった時に柱を持ち上げようとする力に対抗できるか? というポイントを考える必要が出た為です。
この持ち上げようとする力に対抗するためには、持ち上がろうとする部分になにかの部材で対抗すれば容易に持ち上がることを防ぐことができます。家の部材であればホールダウン金物という部材がこれにあたります。
以上から地震に強い建物にする為には、
- 地震力に対抗するスジカイの量(本数)
- 家全体のスジカイ配置位置のバランス
- 持ち上げようとする力(引き抜き力)に対する補強
これらがバランス良く計画された建物が大切です。この計画には計算専用ソフトを使い、その建物にあった量と位置を算定します。その配置計画に基づいて引き抜かれる力に対抗する金物を選定します。
以上が、現代の木造住宅の基本的な耐震性能の考え方です。
骨だけよりも箱のほうが強い
さらに耐震性を向上させるために、家の外壁面に合板を張り付ける方法があります。
またなんとなく考えてみてください。
骨だけ(柱と梁)の形よりも、サイコロのように面が板状になっているもの、どちらの方が強うそうでしょうか?
骨だけだと、グシャって潰れそうですが、箱になっていればちょっとはグシャってなりにくいってイメージできますよね。これを家にあてはめると、外壁の下地に合板を貼り付ける方法がこれに相当します。
実際、木造の耐震性を計算するときも、斜めの木材(スジカイ)1本の強さよりも合板を1枚張ったときのほうが強い係数で計算します。
箱の水平方向の強さも重要です
上記までの考えでは垂直面の強さだけを考えています。しかし強い箱になるためには水平方向の強さも重要です。家の場所で言えば「床」にあたります。
現代の木造住宅では、この床面にも構造用合板を張り付けて、文字通り箱にする方法が用いられます。
家を強くする方法は、なんとなくわかったけど・・・
誰しも思っているのではないでしょうか?
なんとなく家を強くする方法はわかったけど、で 実際にどのくらい強いのよ?
ですよね? 小難しい数字を並べた書類を見せられたところで、誰もが「ちんぷんかんぷん」かと思います。
この一般の方では分かりづらい耐震性能を、等級でランク付けしたものが耐震等級になります。
耐震等級とは?
耐震等級とは、住宅の品質確保の促進等に関する法律(平成11年法律第81号)に基づく評価方法基準(平成13年国土交通省告示第1347号。以下「評価方法基準」といいます。)1-1耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)に定められています。
ランクは3種類あり、数字が大きいほうが耐震性能が高くなります。
最上位クラスの耐震等級3の建物は、数百年に一度程度発生する地震による力の1.5倍の力に対して、倒壊、崩壊等しない建物を想定しています。
ちなみに、建築基準法を満たしただけの建物では、耐震等級1となります。
耐震等級を取得するためには、許容応力度計算という一般の方には難しい言葉が出てきますが、簡単に言えば、耐震等級を取得するということは、ランクに応じて想定した地震に対して強度がありますよ、というお墨付きをきめ細かい計算をして、評価してもらうということになります。
勘違いされるかも知れませんが、その等級を取得したからといってその建物は地震がきてもヒビなんか一切入りませんということではありません。建物が倒壊しないと想定されるということです。
何を基準に評定されるのか?
耐震等級を申請する時に評定されるものは下記の部位になります。
- 壁量の確保
- 耐力壁線間の距離
- 床組等の水平構面の強さ
- 接合部の強さ
- 構造耐力上主要な部材の量・種別 など
これらは、耐震等級を申請しなければ計算しない部位も含まれます。よって耐震等級を取得するということは、通常の建物では計算しないようなところまで細かい計算を行い、強度を算定しているということになります。
細かい部分では、梁の太さや基礎の仕様(地中梁など)も計算されます。
なぜ耐震等級3をすすめるのか?
建築基準法の考え方は、一定の地震がきても倒壊しない、という考えです。しかし繰り返し来る地震までは想定していません。
ですが、繰り返しの地震はいくらでもありえます。熊本地震のときもそうでしたね。
耐震等級3レベルでは、この繰り返しの地震がきても住み続けられるレベル(補修は必要)を想定しています。等級を取得しない家ではそこまできめ細かい計算はしません。簡易な壁量計算のみです。
この記事の冒頭でも述べましたが、家がなくなってしまってはなにもできません。ですが家があれば最低限の行動を取ることができます。
だから、耐震等級3の取得を私はすすめるのです。耐震等級を取得するためには費用がかかります。費用は審査機関や住宅会社によって多少異なりますが、おおよそ20~30万円ほどの費用が発生します。
ですが、ぜひ考えてみてください。
かっこいい家でも、倒壊してしまえばなんの意味もありません。かっこ悪くていいということではありません。生活を守る家が大切です、ということです。
あなたは繰り返しの地震に耐えられないカッコいい家が好みですか?
それとも?
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